ユングと河合隼雄の道。ユングの続き。 参照:莫耶の剣の偶然、莫耶の剣の運命。 http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/005091// 今日はまず河合隼雄さんで。 参照:Wikipedia 河合隼雄 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%B3%E5%90%88%E9%9A%BC%E9%9B%84 河合隼雄さん。1962年にユング研究所に入所した、日本を代表するユンギアンです。ユング自身は1961年に他界しておりまして、河合さんは直接の面識はなかったんですが、個人的にユング研究所で河合さんの体験したこの話に興味があります。 ≪(ユング研究所での試験のときのこと)夢の分析を受けていたときにカラスの頭に宝物みたいなものが載っている夢が出てきたんです。ところが、どう考えても脈絡がつかないわけです。それでぼくはカラスについていろいろと調べたんですが、それでも何も思い当たらない。 そのうちに、昔話の大家フォン・フランツ女史の試験があって、その昔話の試験問題にカラスが登場したんです。ぼくはカラスについて調べていたので「当たり!」(笑)というようなもので、ぺらぺらしゃべるわけ。それでほめられたんですが、彼女が僕が日本人だから日本の伝説を持ち出してくるんです。太陽が九つ出て明るすぎるというので弓で射て一つだけを残すという話なんですが、その太陽は実はカラスなんですね。カラスというのは太陽のシンボルと結びつきやすいんです。それでものすごく感激しましてね。ユングはシンクロニシティということをよく言うんです。「共時性」と訳していますけれども、つまり意味ある偶然の一致ですね。ぼくのこの体験は本当の意味ある偶然の一致でしょう。夢に出てきて調べてその次に試験ですから。ただ、ぼくは合理精神が強いからまあこんなこともあるわという程度で、共時性というのを簡単に認めたくない。それにこんなことがありましたといえば、ユング派の連中が喜ぶのが分かっているので、絶対言うまいと黙っていたんです。ところがその後フォン・フランツを図書館で待っていたとき、何気なく本を開いたら、それが中国のことを書いた本で、なんと太陽にカラスが描かれていて、それを打っている絵がパッと出てきた。ものすごくびっくりしましてね。そしてもっと傑作なことに「It is true,but pity you have said it.(それは真実だ。しかし言ったことは残念だ)」という文が書いてあるんです。これにはますます驚き入りました。それで、女史に言おうか言うまいか、ものすごく迷い、とうとう手紙に書くんです。こういうことを言うのは僕の趣味に合わない。真実であればあるほど言わないというのが東洋人の考えで、中国の言葉にもそうあった。しかし、ぼくはあったことはあったこととして、ともかくあえて言うことに意味があるんじゃないかと書いたんです。女史はすごく喜んでくれましたけれど、あれは面白い体験でした。≫『魂にメスはいらない ユング心理学講義』 -意味ある偶然の一致-より) 河合さんのシンクロニシティ体験にあるカラスというのは、八咫烏(やたがらす)です。東アジアには太陽の中に三本足のカラスがいるという伝承が多く残っています。 参照:Wikipedia 八咫烏 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AB%E5%92%AB%E7%83%8F 『日本書紀』の元ネタ、漢代の『淮南子(えなんじ)』の精神訓では「日中有?烏(日中にシュンウ有り」としています。ちなみに、古くから「月のウサギ」と「太陽のカラス」と対比されることから、南方熊楠はこの太陽の中の鳥を「太陽黒点」であると推測しています。 参照:中国哲学書電子化計画 淮南子 http://ctext.org/miscellaneous-schools/zh 「元気」の由来と日本書紀。 http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5082 。 羿(げい)が九つもあった太陽を射て焦熱に苦しむ地上を救うという「射日神話」は、あまり日本では見られませんが、これも『淮南子』にあります。 『逮至堯之時、十日並出、焦禾稼、殺草木、而民無所食。??、鑿齒、九嬰、大風、封?、修蛇皆為民害。堯乃使羿誅鑿齒于疇華之野、殺九嬰于凶水之上、?大風於青丘之澤、上射十日而下殺??、斷修蛇於洞庭、禽封?于桑林、萬民皆喜、置堯以為天子。』(『淮南子』本経訓) →堯の時代に至り、十個の太陽が天に現れ、穀物を焦がし、草木を殺し、民の食べるものは無くなってしまった。ありとあらゆる天災や物の怪が民を害した。堯は弓の名手・羿(げい)に魔物の退治を命じた。羿は鑿齒を疇華の野で誅し、九嬰を凶水の上にて殺し、大風を青丘の澤にて討ち、上は十の太陽を、下は<アツユ>を殺し、修蛇を洞庭にて斬り、<ホウキ>を桑林で捕らえた。万民はこれを喜び、堯を天子の位につかしめた。 で、この前後に『老子』や『荘子』の引用が目立ちまして、『淮南子』の『知之所不知,辯弗能解也。不言之辯,不道之道,若或通焉,謂之天府。取焉而不損,酌焉而不竭,莫知其所由出,是謂瑤光。』とあるのは、荘子で言うと 『故知止其所不知,至矣。孰知不言之辯,不道之道。若有能知,此之謂天府。注焉而不滿,酌焉而不竭,而不知其所由來,此之謂葆光。』(『荘子』斉物論 第二) →不知を不知のまま留めているのが、知の至りである。不言の弁や不道の道をどのように知ろうというのだろうか?もし、そんな万能の知を持っている人物がいるならばその人を「天府」と呼ぶ。注いでもあふれ出ず、汲み出しても尽きない器。どのようにしてそんな人になれるかは知らないが、これを蔽われた光「葆光」という。 『昔者十日並出、萬物皆照、而況徳之進乎日者乎。』(同上) →その昔、十の太陽が並び出て、万物を照らしたといいます。ましてや太陽にも勝るあなたの徳の恩恵は比べ物になりますまい。 ・・・これ、ですね。 「It is true,but pity you have said it.(それは真実だ。しかし言ったことは残念だ)」河合さんが偶然引き当てた文章はおそらくこのあたりでしょう。「言うものは知らず、知る者は言わず」ですよ。 ユングの思想に「道(Tao)」に強い関連性があり、河合さん自身も、ドイツ語版とスイス語版で『老子』を勉強したと告白しています。ユング研究所の研究者達が当然のように『老子』を持っていたとか、『影の現象学』で『荘子』が引用されていたりするというだけでも、なんとなくは分かると思うんですけども・・・・ま、黒船来航で有名なペリーの孫ジョン・ペリー(John Weir Perry (1914-1998))がユンギアンでタオイストだという話は、単純に面白いと思います(笑)。 参照:A Jungian Approach to Psychosis http://jungianschizophrenia.blogspot.com/2009/01/inner-apocalypse-in-mythology-madness.html 日本に開国を迫った人の孫が、第二次大戦中にタオイストになったの図。 参照:エヌマ・エリシュと老荘思想。 http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5051 『ユング自伝』には、1930年代に、ノーベル文学賞候補にも挙がった中国の思想家・胡適(Hu Shih 1891~1962)さんにユングが『易経』と道教の占いについてしつこく質問して「あれは魔術のコレクションだから!」とかなり怒られたという話もあるんですが(あの頃の中国人になんつー能天気なことを(笑))、ユングはここに相当拘ってます。 参照:Wikipedia 胡適 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%83%A1%E9%81%A9 『タイプについての本は、個人によってなされるあらゆる判断が、その人のパーソナリティのタイプによって左右されること、また、どんな観点でも、必ず相対的なものであるという洞察を生じた。これは、多様性を補うに違いない合一という問題を提起し、中国の「道(Tao)」の概念をまっすぐに導いた。私の内的発展と、リヒャルト・ヴィルヘルムが私に道教の経典を送ってきたこととの相互作用についてはすでに述べた。1929年に彼と私は『黄金の華の秘密』について共同研究をした。私が再び世間に帰る道を見つけたのは、やっと私の思索と研究の中心点、すなわち「自己(セルフ)」の概念に到達した後になってからである。』(『ユング自伝2』「研究」より みすず書房) 参照:当ブログ ユングのタオと芭蕉の鬱。 http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5050 ユング派のデイヴィット・ローゼンも『ユングの生涯とタオ』で言っていますが、いわゆる現代の「分析心理学」に、明らかに道教や『易経』の影響が見られるんです。 参照:Wikipedia 分析心理学 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%86%E6%9E%90%E5%BF%83%E7%90%86%E5%AD%A6 で、どうもこの辺は、和辻哲郎さんや、九鬼周造さんも研究している「ペルソナ(Persona)」もあるんですよね。 参照:Wikipedia ペルソナ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%83%AB%E3%82%BD%E3%83%8A_(%E5%BF%83%E7%90%86%E5%AD%A6) 参照:『ペルソナ』オープニングムービー “Dream of Butterfly” http://www.youtube.com/watch?v=GV9J1jA4Kdg ・・・また、ここにも、当たり前のように栩栩然として夢の胡蝶が飛んでるんですよ。 今日はこの辺で。 ジャンル別一覧
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